ベンチプレスで大胸筋への刺激が逃げてしまう最大の要因は、骨格のアライメント(骨の配列)の崩れにあります。胸の筋肉である大胸筋は、鎖骨の内側・胸骨・肋軟骨から腕の上腕骨に向かって走行しています。バーベルを下ろした際に肘が外側に大きく開きすぎると、大胸筋の筋繊維の走行ラインから負荷が逸脱し、肩の前面(三角筋前部)や腕(上腕三頭筋)へ物理的な負荷が分散してしまいます。
特にトレーニーを悩ませるベンチプレスで肩が痛い理由の筆頭が「インピンジメント症候群」です。肩関節と上腕骨が90度近く開いた「T字フォーム」のままバーベルを下ろすと、肩峰下腔にある腱板(回旋筋腱腱)や滑液包が骨に挟み込まれ、鋭い炎症や腱損傷を引き起こします。これを防ぐには、脇の角度を体幹に対しておよそ45度〜60度に絞り、大胸筋下部から中部にかけて自然な張力を受け止める設計が不可欠です。
一方、ベンチプレスにおける手首の握り方の不具合も深刻な怪我を招きます。手のひらの中央や指の付け根に近い位置でバーを支えてしまうと、バーの重量によって手首が極端に背屈(後ろへ折れ曲がる状態)します。これにより前腕の橈骨・尺骨からバーまでの間に余計なモーメントアーム(テコの距離)が生じ、手首の腱や靱帯に破壊的な負荷がかかります。手のひらの母指球から小指球を結ぶ斜めのライン(生命線に沿う位置)にバーを乗せ、前腕の骨の真上に荷重をダイレクトに乗せる技術が必須となります。