映画監督・熊井啓との出会いが、彼女の役者魂を決定的に開花させた。社会派の巨匠として知られる熊井監督は、彼女の内に秘められた激しい情動と脆さを見抜き、重要な役どころを次々と託すことになる。
2001年公開の『日本の黒い夏 冤罪』で見せた緊迫感あふれる佇まいに続き、翌2002年の映画『海は見ていた』において、遠野なぎこは映画史に残る熱演を披露した。黒澤明が遺した脚本を熊井啓が映画化したこの大作で、彼女は深川の岡場所で生きる遊女・お新を熱演。息をのむような濡れ場シーンでは、ただ肉体を晒すだけでなく、過酷な運命に翻弄されながらも一途な愛を求める女の魂の叫びを体現した。
肌の温もりすら伝わるような生々しさ。哀切と官能が美しく交錯するその情景は、巨匠の厳しい要求に全身で応えた彼女の真骨頂であり、日本映画の歴史に刻まれるべき名場面となった。