忍野八海は、かつてこの地にあった「宇津湖(うつこ)」が延暦19年(西暦800年)の富士山大噴火によって分断され、干上がった盆地に残された富士山の伏流水の湧出口です。古くから富士山信仰(富士講)の巡礼地として栄え、道者(行者)たちが富士登山を行う前に八つの池を巡って身を清める「八海巡り(禊修行)」の聖地として崇められてきた歴史を持ちます。
それぞれの池には富士山信仰に結びついた八大竜王が祀られており、宗教文化人類学的な文脈からも極めて高い文化的価値を有しています。まずは、指定されている8つの池の特徴を把握しておきましょう。
1. 出口池(でぐちいけ):八海の中で最大の面積を誇る第1番霊場。中心街から西へ約1km離れた林の中に静かに佇み、観光客の喧騒から隔絶された厳かな雰囲気を残しています。
2. お釜池(おかまいけ):八海の中で最も小さな池ですが、すり鉢状の深い底から毎秒のように湧き出る水の青さは圧倒的。バイカモ(梅花藻)の揺れる清涼な光景が見事です。
3. 底抜池(そこなしいけ):有料エリア「榛の木林資料館」の敷地奥に位置し、昔から「物を落とすと底が抜けてお釜池に浮かび上がる」という神隠し伝説が残る神秘的な池です。
4. 銚子池(ちょうしいけ):酒を注ぐ銚子の形に似ていることから名付けられ、底の砂地から水がこんこんと吹き出す様子が観察できます。縁結びのご利益でも知られます。
5. 湧池(わくいけ):忍野八海の中心にあり、湧水量が毎秒2立方メートル超と最も豊富。水深約4mの底まで透き通る群青の世界は、八海を代表する絶景スポットです。
6. 濁池(にごりいけ):阿藤川に隣接する池。かつて一杯の水を求めた行者を無碍に断った老婆の家の水が濁ったという伝説に由来しますが、実際には澄んだ水が流れています。
7. 鏡池(かがみいけ):条件が整うと風のない水面に富士山がくっきりと映り込む「逆さ富士」の景勝地。善悪を見分ける清冽な水として尊ばれてきました。
8. 菖蒲池(しょうぶいけ):ショウブが生い茂る細長い池で、初夏には美しい花が咲き誇ります。池越しに望む雄大な富士山の構図は写真愛好家にも人気です。
ここで多くの旅人が見落としがちなのが、お土産屋「池本荘」の目の前にある深さ8メートルの巨大な池(通称:中池)の存在です。コインが投げ入れられ、巨大な魚が泳ぐこの池は民有地の人工池であり、国の天然記念物や世界遺産を構成する忍野八海(8つの湧水池)には含まれていません。人工池の華やかさに目を奪われ、本来の由緒ある天然の池を見逃してしまうケースが多いため注意が必要です。