言葉のない名作として名高い『旅の絵本』。馬に乗った一人の旅人がヨーロッパの街並みをゆったりと巡る構成だが、絵の中に恐ろしいほどの密度で伏線が張られている。細部を観察すると、歴史的名画の一節や童話の主人公、だまし絵の構造がさりげなく背景へ溶け込んでいるのに気づくだろう。
階段を登っているはずがいつの間にか下っていたり、川の水流が不自然な方向へ流れていたりと、視覚的な矛盾が巧みに配置されている。画面のあちこちに潜む小さなストーリーを探す楽しさは、世代を超えた知的体験だ。単なる景色の描写ではなく、見る者の観察力と想像力をどこまでも試してくる構造になっている。