「娘の成人祝いにアコヤ真珠のネックレスを」という日本の伝統的な消費行動は、急速に過去のものになりつつある。現在、最高品質のラウンド真珠一連は、都内の一等地で高級車が一台買えるほどの価格で取引されている。真珠はもはや、冠婚葬祭のフォーマルウェアを彩るアイテムではなく、ゴールドや現代アートと同じ「オルタナティブ(代替)投資資産」へと変貌を遂げた。
インフレヘッジとしての実物資産需要が、世界的な供給不足と衝突した結果だ。特に養殖期間を通常より長く取った「越物(こしもの)」と呼ばれる巻きの厚い珠は、年間の生産量が激減しており、国際オークションに出品されるや否や投機マネーが殺到する。だが、この価格沸騰は業界関係者を喜ばせてばかりはいられない。国内の一般消費者が完全に締め出され、文化としての裾野が急激に痩せ細っているからだ。資産としての価値と、日常に寄り添う工芸としての価値。その引き裂かれた現実に、養殖業界は頭を抱えている。