ここで多くの人が直面するのが、「英語では受動的なはずのヒアリングが、なぜ日本のビジネス現場では能動的な情報収集業務を指すのか」という疑問です。日本のオフィスでは、「クライアントの要望をヒアリングする」「ユーザーヒアリングを実施する」といった能動的なアクションとして定着しています。
この現象の引き金となったのは、昭和から平成にかけて官公庁や大企業で導入された「公聴会(public hearing)」や「事情聴取(hearing)」という制度用語の輸入過程にあります。本来、英語圏における「hearing」は法廷での審尋、公聴会、あるいは医学的な「聴覚機能」を指す極めて形式的かつ限定的な名詞です。
行政機関が関係者を集めて実態調査を行う手続きを「ヒアリング調査」と呼称したことから、民間企業にも「課題や要望を能動的に聞き出すプロセス=ヒアリング」という認識が浸透しました。その結果、日常業務の中で「要件定義のための聞き取り」という意味合いを持った独自の和製英語として定着した経緯があります。
グローバルビジネスの現場で海外の取引先に対し「I would like to hear your requests.」などと発言すると、相手は「公的な査察でも受けるのか」と身構えたり、上から目線の尋問のように受け取ったりしかねません。海外とのコミュニケーションでは、「ask about」や「conduct an interview」「learn more about your needs」といった表現に置き換えるのが鉄則です。