副鼻腔癌が初期に痛みを引き起こさない理由は、その解剖学的構造に由来します。副鼻腔は骨でできた硬い箱のような空洞であり、空洞内部で腫瘍が増殖している間は知覚神経を直接刺激しません。ところが、腫瘍が空洞を満たし、周囲の薄い骨壁を溶かして外側に浸潤し始めた瞬間から、症状は一気に多角化します。
なかでも代表的な警戒すべき兆候が、顔のしびれと目の突出です。
上顎洞の天井部分は、眼球を支える「眼窩底(がんかてい)」という非常に薄い骨で構成されています。腫瘍が上方へ進展してこの骨を破ると、眼球が下から押し上げられ、鏡を見たときに「片方の目がわずかに飛び出している」「左右の目の高さがずれている」といった変化が生じます。さらに外眼筋や視神経に影響が及ぶと、ものが二重に見える「複視(ふくし)」や視力低下が引き起こされます。
一方、上顎洞の後方や直上には、顔面の感覚を司る三叉神経(第二枝・上顎神経)が走っています。がんがこの神経を圧迫・浸潤すると、歯医者で麻酔を打たれた後のように「頬や小鼻の周り、上唇がピリピリとしびれる」「触った感覚が鈍い」といった知覚異常が現れます。また、下方へ進展した場合は「上の奥歯がグラグラする」「虫歯でもないのに抜歯を勧められるほど歯肉が腫れる」という歯科領域の異常として自覚されるケースも少なくありません。