古くから「狐の窓を安易に作って覗いてはならない」と言い伝承されてきた最大の理由は、視線の相互性に由来する。自分が異界を覗き見ている時、異界の側からもまた、こちら側の存在に気付かれてしまうからだ。都市伝説の世界では、覗いた瞬間に異形と目が合い、金縛りや憑依現象に襲われたという怪談が後を絶たない。
妖怪文学の第一人者である京極夏彦の作品世界でも描かれるように、人と怪異との境界線は極めて曖昧であり、意図的にその境界を越える行為には相応の代償が伴う。映画『妖怪大戦争』に見られるような異形の世界観はエンタメとして消費されるが、現実の伝承における怪異探知は、精神の平穏を脅かす危険な行為として強く忌避されてきた。覗くという行為自体が、恐怖を引き寄せる磁石となるのである。