原作である『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」は、10万馬力のアトムをはじめとする世界最高峰の7大ロボットが、謎のロボット・プルートゥに次々と倒されていくバトル展開を主軸とした痛快かつ哀切な物語でした。しかし、浦沢直樹の手腕によって生まれた『PLUTO』は、まったく異なるアプローチをとっています。
最大の違いは、ユーロポールの刑事ロボットであるゲジヒトを主人公に据え、連続殺人ならぬ「連続ロボット破壊事件」を追う重厚な本格刑事ノワールへと構造を刷新した点です。読者はゲジヒトの捜査の足取りを通じて、事件の背後にある国家間の謀略や差別、ロボットたちの抱える孤独に直面することになります。
さらに物語の背景には、現実の国際情勢を色濃く反映した「第39次中央アジア紛争」が設定されました。大量破壊ロボット保有の疑惑をかけられたペルシア王国と、それを査察・攻撃した大国トラキア共和国。国家のプロパガンダや戦争の傷跡、憎悪の連鎖といった重厚な社会派テーマを組み込むことで、子供向けのSFバトルから大人の鑑賞に堪えうる深遠なヒューマンドラマへと見事な変貌を遂げました。