主演を務めた一ノ瀬ワタルの存在感は、まさに作品の命運を左右する圧倒的な核であった。元プロ格闘家という異色の経歴を持つ彼ですら、この役に挑むにあたっては約2年半に及ぶ熾烈なトレーニングを余儀なくされた。体重を40キロ近く増量させ、力士としての体躯をゼロから作り上げた執念は、画面越しにも吐息と汗の臭いが漂うほどの凄みを醸し出している。
単なる見せかけの筋肉ではない。股割りや四股を踏み続ける過酷な稽古の日々は、本物の力士さながらの重厚な腰つきと、相手を威圧する独特の立ち振る舞いを彼に刻み込んだ。どん底の境遇から這い上がろうとする主人公・小瀬清(猿桜)の内に秘めた怒りと悲哀は、一ノ瀬の命がけの肉体表現によって初めて完全なリアリティを獲得したのだ。