東京の地理に詳しい者なら誰もが知る通り、港区の中でも西麻布には電車が通っていない。最寄りの六本木駅や広尾駅からは徒歩10分以上を要する。だが、この「交通の不便さ」こそが、野次馬やカジュアルな観光客を自然と排除する強力なフィルターとして機能してきた。車移動が基本である大物タレントや映画関係者にとって、アクセスの悪さはむしろ格好の防壁となる。
かつて若手実力派俳優として名を馳せた小栗旬をはじめ、数々のトップスターたちがこの地で夜な夜な演劇論や映画の構想を語り合ったエピソードは、業界内でも語り草だ。隠れ家風の居酒屋や深夜営業の高級鉄板焼き店は、単なる飲食の場を超えて、次なるヒット作の構想が生まれる密室としての役割を果たしてきた。利便性よりも匿名性を優先するカルチャーが、この街には深く根付いている。