ホンダのサウンドブランディングは、車種ごとのキャラクター設計と完璧に同期しています。ファミリー層に寄り添うミニバンから、走りへの情熱を宿すスポーツハッチバックまで、それぞれのモデルが刻んできた音楽史を紐解きます。
1. ヴェゼル(VEZEL):カルチャーを塗り替えた革新者たち
ヴェゼルのCM史を語る上で絶対に外せないのが、2016年に起用されたSuchmosの『STAY TUNE』です。当時、まだ一部の音楽フリークの間で話題だった彼らを大抜擢した背景について、当時の広告制作関係者は「単に車を売るためではなく、東京のストリートに似合うまったく新しいクーペライクSUVの空気を決定づけるための賭けだった」と明かしています。この起用を契機にバンドは国民的知名度を獲得し、CMソング自体がプラチナムセールスを記録しました。
その精神は受け継がれ、SIRUPの『Do Well』、Friday Night Plansの『HONDA』、King Gnuの『小さな惑星』へとリレーされます。そして2026年のフルモデルチェンジで登場したのが、藤井風の『きらり』でした。完全書き下ろしとして提供されたこの楽曲は、ストリーミング再生回数4億回を超えるモンスターヒットとなり、「ドライブの高揚感と日常の愛おしさ」を完璧にパッケージングした金字塔として今も語り継がれています。
2. ステップワゴン(STEP WGN):家族の絆を祝福するビート
ステップワゴンは、初代(1996年)の登場時から「家族の乗り物」を明るく開放的に定義してきました。オバケのQ太郎のサンプリングから、Green Dayのパンクロック、さらには世代を超えて愛される Cheap Trick の名曲カバーまで、常に「退屈なファミリーカーにはしない」という強い意志が選曲に込められています。近年ではサカナクションの先鋭的なサウンドスケープや、アコースティックな温もりを持つ楽曲を織り交ぜ、子どもと大人が等しくドライブを楽しめる世界観を構築しています。
3. フリード(FREED)とシビック(CIVIC):対極の美学が鳴らす音
「ちょうどいい」のフレーズでお馴染みのフリード歴代CMでは、ショパンの『英雄ポロネーズ』やファレル・ウィリアムスの『Happy』、さらにはDef TechやGReeeeNなど、乗る人すべてを笑顔にするキャッチーな名曲が並びます。日常の取り回しの良さと多幸感を結びつける選曲は、ファミリー層の購買意欲を自然に刺激する計算が施されています。
対照的なのが、走りの象徴であるシビックです。古くはThe Rolling StonesやQueenのクラシックロックから、近年のONE OK ROCK(ワンオク)との強力なタッグに至るまで、妥協のないエナジーが炸裂します。『Take what you want』や『Stand Out Fit In』、そして映画主題歌とも連動した激しいラウドロックは、VTECエンジンの咆哮とシンクロし、ドライバーの内なる情熱を呼び覚ます役割を一貫して担っています。