井手氏の思想を語る上で欠かせないのが、「ベーシックサービス」論です。これは、人間が生きていく上で不可欠な基礎的サービス——すなわち医療、介護、保育、教育、障害者福祉、住宅などを、所得制限を設けず、すべての国民に現物給付として無償(または超低負担)で保障する社会構想を指します。
話題の「ベーシックインカム(一律の現金給付)」としばしば比較されますが、両者の思想は根本から異なります。井手氏は、現金を配るだけでは市場での価格高騰やギャンブル等への消費を防げず、格差の根本解決にはならないと指摘。生活に絶対必要なサービスそのものを社会全体で現物保障することで、お金がなくても誰もが人間らしい尊厳を保って暮らせるセーフティネットを構築すべきだと主張しています。
特筆すべきは、「所得制限を完全撤廃する」という点です。低所得者層だけに給付を限定すると、中間層や高所得者に「自分たちの税金が他人に使われているだけだ」という不満や納税者意識の希薄化が生まれ、社会に深刻な「分断」が生じます。全員が受益者になる仕組みを設計することで、中間層も社会保障の恩恵を実感でき、連帯感のある強い共同体が再生するというのが、この理論の核心です。