『涼宮ハルヒの憂鬱』における最大の試みの一つは、主人公・キョンの膨大なモノローグ(心の中の語り)によって物語全編を構築した点にある。原作の谷川流が書いた軽妙洒脱かつペダンチックな文章を、声優の杉田智和はいかにして立体的な音響空間へと昇華させたのか。その解こそが、当時声優業界でも異彩を放っていた彼の卓越した演技力と独自の存在感だった。
杉田の低音でややドライな声質は、過剰になりがちな学園SFの設定を現実世界へと繋ぎ止めるアンカー(錨)の役割を果たした。過度な感情移入を拒むような冷めた口調。それでいて、窮地に陥った瞬間には剥き出しの熱量が滲み出る。この絶妙な温度差のコントロールが、視聴者に対して「キョンの視線=自分自身の視線」として没入させる強力な引き金となった。