この事件の真の主導者は誰だったのか。その鍵を握る人物こそ、後期倭寇の大頭目として東アジア海域に君臨した中国人海商、王直である。『鉄砲記』にも「儒生・五峰」の名で登場する彼は、明の監視網をかいくぐり、武装商船団を率いて巨万の富を築いていた。
当時、マラッカやマカオを足がかりにアジア進出を図っていたポルトガル海上帝国は、独力で日本市場を開拓したわけではない。彼らは王直が率いる強力なジャンク船と航海ネットワークに「便乗」する形で日本へ到達したにすぎない。ヨーロッパの覇権拡大と東シナ海の海賊ビジネスが手を結んだ瞬間、極東の島国は世界規模の地政学的渦中へと一気に引きずり込まれたのである。