映画『渇き。』を語る上で欠かせない最大のトピックが、天使と悪魔の二面性を併せ持つヒロイン・藤島加奈子役に当時モデルとして活動していた小松菜奈が大抜擢された経緯です。
『告白』などで知られる中島哲也監督は、加奈子役のキャスティングにおいて「誰も見たことがない、圧倒的な存在感を持つ少女」を求め、大規模なオーディションを敢行しました。応募者多数のなか、演技経験がほとんどなかった小松菜奈がオーディション会場に現れた瞬間、監督やプロデューサー陣は「加奈子がいた」と直感したと語り継がれています。清楚な美少女でありながら、底知れぬ狂気と冷酷さを瞳の奥に宿す彼女のビジュアルと佇まいは、まさに原作者や制作陣が思い描いた加奈子そのものでした。
撮影現場では中島監督による徹底した演技指導が連日繰り広げられ、役所広司演じる元刑事の狂暴な父親・藤島昭和と対峙する緊迫のシーンが積み重ねられました。公開当時、映画関係者や映画ファンからの演技の評判は凄まじく、「スクリーンから目を逸らせない」「恐ろしいほどのモンスター新人が現れた」と絶賛の嵐を巻き起こしました。小松菜奈にとっての映画デビュー作にして、日本映画史に残る鮮烈なヒロイン誕生の瞬間でした。