本作の魅力は、濃厚な恋愛感情だけでなく、ヤクザ社会における緻密な権力闘争と過去の因縁が複雑に交錯するサスペンス性にあります。現在までに提示されている重要伏線と経緯を整理します。
1. 矢代の生い立ちと義父からの性的虐待
矢代がマゾヒストとなり、自分自身を価値のない肉塊として扱うようになった根源には、幼少期に義父から受けた凄惨な性的虐待が存在します。「傷つけられることでしか自己の存在を確かめられない」という呪縛が、矢代のすべての行動規範の根底に横たわっています。
2. 影山への秘めた想いと「触れられない」防衛機制
矢代にとって高校時代からの友人である影山は、唯一「性的な対象にせず、綺麗であり続けてほしい」と願った光でした。しかし影山が久我と結ばれたことで、矢代は自らの聖域を完全に失います。この失恋の痛みを受け止め、包み込もうとしたのが百目鬼でした。
3. 百目鬼の過去と家族の罪
百目鬼が元警察官でありながら前科者となった理由は、実父による実妹への性的虐待を止めようとして父親に重傷を負わせたためです。百目鬼自身もまた、家族の中で深い傷を負っており、矢代の抱える闇に対して本能的な共鳴と救済欲求を抱いています。
4. 三和会内部の権力争い(三角・平田・綱川)
矢代を拾い育てた三角と、矢代を敵視し謀略を巡らせて失脚した平田。そして第2部で百目鬼が所属する桜一家の組長・綱川。裏社会の冷酷なシノギと勢力図の変動が、矢代と百目鬼の個人の感情を容赦なく飲み込んでいきます。