近年の高座において特筆すべきは、古典落語に対するアプローチの純度の高さである。正蔵の落語は、決して派手なクスグリ(笑いどころ)で客を煽らない。むしろ、言葉と言葉の「間」、視線の揺らぎ、扇子の置き方といった極限まで削ぎ落とされた所作によって、情景を立ち上がらせる。
とりわけ人情噺で見せる表現力は圧巻だ。『子別れ』や『文七元結』、『しじみ売り』などで描かれる、弱さを抱えながらも懸命に生きる長屋の住人たち。その台詞回しには、人間の業を包み込むような温もりと、抜き差しならない切なさが滲む。滑稽噺の軽快なテンポ感を土台にしつつ、物語の核心にある人間の情愛を浮き彫りにする技術は、当代屈指の領域に達している。