リアルタイム追跡サービスを利用していると、「航行中のはずの船が突然マップから消えた」「数時間前の位置で静止したまま動かない」という現象に直面することがある。ネット上では「海難事故ではないか」「通信障害か」と騒がれるケースも少なくないが、その大半は技術的な仕様によるものだ。
無料版における「衛星AIS」の壁
最大の要因は、沿岸の地上局から離れて外洋(沖合約70km以上)に出たことによる電波の途絶である。地上局の受信エリアを外れると、位置の更新には低軌道衛星経由のデータが必要となる。多くの無料追跡サービスでは、衛星AISデータのリアルタイム表示を有料プラン(プロ向けサブスクリプション)に限定しており、無料アカウントでは数時間〜半日前のデータしか反映されない仕様になっている。決して船が沈没したわけではない。
公船・小型船の「AIS非搭載・意図的オフ」
もう一つの盲点は、すべての船が表示されるわけではないという点だ。海上自衛隊の護衛艦や米海軍の軍艦、海上保安庁の巡視船などは、防衛上・治安維持上の機密保持のためAIS信号を停波(オフ)して運用されるのが通常である。また、小型の漁船や個人所有のプレジャーボートはSOLAS条約のAIS搭載義務対象外であることが多く、民間の追跡マップにはそもそも現れない。
【プロの結論】おすすめできる人・慎重になるべき人の判断基準
船舶追跡ツールは強力な情報収集手段だが、用途に応じた向き・不向きが存在する。
- 活用をおすすめできる人:
- フェリー旅が好きで航行位置や周囲の船を船上から把握したい旅行者
- 家族や知人が乗船している船の入港時刻を正確に予測したい人
- 港湾・海運・貿易関係の動態をコストをかけずに定点観測したいビジネスパーソン
- 沿岸部での船舶撮影(シップスポッティング)を楽しむカメラファン
- 利用に慎重になるべき・過信してはいけない人:
- 自身が小型ボート等を操縦しており、衝突防止用レーダーの完全な代替として無料スマホアプリを使おうとしている人(無料アプリは数分〜数十分の遅延が発生し得るため航行安全用には絶対に使えない)
- 外洋を航行する貨物船の分単位の動静を完全無料だけで完璧に追いきれると考えている人