ドイツの大聖堂を鑑賞する上で欠かせないのが、中世の人々が到達した建築構造の進化と「光の神学」への理解です。ロマネスク様式の教会が分厚い石壁と小さな窓による薄暗い瞑想空間であったのに対し、12世紀以降フランスから伝播したゴシック建築の特徴は、極限までの「垂直性」と「開放感」にあります。
石造建築において天井を高く持ち上げようとすると、屋根の自重によって壁が外側へ押し出され崩壊する危険が生じます。この物理的限界を打破したのが、交差リブヴォールト(尖頭リブ交差穹窿)と、建物の外側からアーチ状に壁を支える「フライング・バットレス(飛梁)」でした。荷重を外側のバットレスへ逃がすことで壁面を極限まで薄く削ぎ落とし、巨大な開口部を作り出すことに成功したのです。
その広大な開口部に嵌め込まれたのが、ステンドグラスでした。中世の神学者シュジェールが唱えた「神は光である」という思想に基づき、ステンドグラスを透過して降り注ぐ神秘的な色彩の光は、信徒にとって地上における天国の視覚的体験そのものでした。また、文字を読めない庶民に対して聖書の物語を伝える「視覚的聖書」の役割も担っていたのです。
ケルン大聖堂には、14世紀中世黄金期の精緻な聖書物語ガラスだけでなく、21世紀の革新的な現代アートも共存しています。南翼廊の窓を飾るのは、ドイツ現代美術の巨匠ゲルハルト・リヒターが2007年に手掛けたステンドグラスです。1万枚以上におよぶ72色の正方形ガラスをランダムに配置したモザイク状の抽象デザインは、制作発表当時に「伝統への冒涜か、現代の奇跡か」と激しい論争を巻き起こしました。晴れた日の午前中にこのステンドグラスを通過した陽光が、灰色の石畳を色とりどりの光のモザイクで染め上げる光景は、現在ではケルン屈指の絶景ポイントとして定着しています。