歴史を振り返ると、遺伝的浮動の重要性にいち早く着目したのは米国の遺伝学者シーウォル・ライトだった。彼は1930年代、小さな隔離集団において偶然による遺伝子頻度の変動が進化を促す「ライト効果」を提唱した。
この潮流を決定づけ、世界的な大論争を巻き起こしたのが日本の国立遺伝学研究所で活躍した木村資生(きむら・もとお)である。木村は1968年、分子レベルで見られる進化の変異の大部分は自然選択に対して有利でも不利でもない「中立」なものであり、それらが固定するのは遺伝的浮動によるものだとする「中立進化説」を発表した。
当時主流だった厳格なダーウィン主義者たちからは激しい反発を受けたものの、その後のゲノム解析技術の発展によって中立進化説の正しさは強力に裏付けられた。現在、日本進化学会をはじめ世界の学術界において、木村の業績は現代進化学の金字塔として揺るぎない地位を築いている。