苦節の潜伏期間を経て、映画俳優・西島秀俊の名を世界へ轟かせた決定打が、2002年公開の北野武監督作『Dolls』である。山本耀司の手がけた鮮烈な衣装をまとい、菅野美穂演じる記憶を失ったかつての婚約者と赤い縄で繋がれ、あてどなく彷徨い続ける青年・松本。台詞を徹底的に削ぎ落とした映像詩の中で、彼の身体そのものが放つ美と狂気は、ヴェネツィア国際映画祭をはじめとする国際舞台で激賞を浴びた。
日本映画の枠を超え、世界水準のアート映画に求められる表現力を完全に体得した彼は、黒沢清監督の『ニンゲン合格』など作家性の強い監督たちの作品で唯一無二の存在感を確立していく。若い頃の安易な名声を捨て去り、己の表現欲求に殉じた決断が、完全に結実した瞬間だった。