工作を主導する中心組織のひとつが、中国のインテリジェンス機関である中国国家安全部(MSS)です。彼らが用いる手法は、映画のワンシーンのように突然美女が寝室に現れるような稚拙なものではありません。標的の選定から接触、関係構築に至るまで数か月から数年をかける極めて戦略的なものです。
典型的な中国ハニートラップの手口は、綿密な事前調査から幕を開けます。標的となる人物の趣味嗜好、家庭環境、経済状況、職場の人間関係に至るまで徹底的にプロファイリングを実施。その上で、最も警戒されにくいシチュエーションを選び抜きます。
代表的なアプローチの舞台となるのが、現地での歓楽街やカラオケクラブ(KTV)、あるいは国際会議や経済セミナーのレセプション会場などです。通訳、現地ガイド、イベントスタッフ、研究員といった肩書きを持つ工作員や協力者が派遣され、ターゲットが「偶然の素敵な出会い」と信じ込むような会話を巧みに展開します。相手の警戒心を徐々に解き、酒席を重ね、密室へと誘い込んだ瞬間、あらかじめ設置された監視カメラのシャッターが切られるのです。