投扇興の勝負において、勝敗を決定づけるドラマを生み出すのが「胡蝶」です。この役がなぜこれほどまでに特別視されるのか、その核心は物理法則の限界に挑むような絶妙な成立条件にあります。
投扇興は、木製の台座である「枕(まくら)」の上に、和紙と麻糸で作られたイチョウ型の的「蝶(ちょう)」を立て、約1.8メートル離れた位置から開いた「扇(おうぎ)」を投げて蝶を落とす競技です。扇が手元を離れた後、扇・蝶・枕の3要素が最終的にどのような位置関係で静止したかによって役(銘)と点数が決まります。
胡蝶の基本となる成立条件は、「投げた扇が蝶を枕から弾き飛ばす、あるいは回転させながらも、蝶が床に落ちることなく枕の上に直立して静止し、扇は枕や蝶に触れずに床へ落ちる状態」を指します。流派によっては「蝶が枕の上に倒れずに立ち、扇が枕の横に美しく寄り添う形」など細微なバリエーションが存在しますが、共通しているのは「的である蝶が、舞台である枕の上にとどまり続ける」という奇跡的なバランスです。
得点表における配点は流派により定めが異なりますが、一般的に25点から35点前後の高得点が付与されます。一投の平均得点が1点〜5点(「花散里」や「須磨」など)にとどまる初心者同士の対局において、胡蝶の一撃は文字通り一発逆転の決定打となります。