「あんな相撲は見たことがない」。かつて大関として一世を風靡した評論家は、苦笑いを浮かべながらそう語る。彼の立ち合いにおける変幻自在の体さばきや、予測不能なタイミングで放たれる投げ技に対し、界隈内部では賛否が渦巻いている。
正攻法の押し相撲を尊ぶベテランファンからは「もっとどっしり構えるべきだ」との注文もつく。だが、勝利に対する愚直なまでの執着と、相手の弱点を完璧に突き抜く戦略眼は、勝負師としての冷徹な凄みを放つ。「品格」という目に見えない重圧がのしかかる中で、彼は自らのスタイルを変えるつもりは毛頭なさそうだ。土俵の伝統と革新の激突は、角界全体に心地よい緊張感をもたらしている。