2016年に『ちはやふる -上の句-』および『-下の句-』が発表された際、キャスティングを巡っては様々な議論が巻き起こりました。原作における真島太一は、容姿端麗、学業優秀、家柄も申し分ない「完璧な優等生」でありながら、かるたの天才である綿谷新に対する強烈な劣等感と、綾瀬千早への届かない片思いに苦悩する極めて陰影の深い人物です。当時、ストリート感や快活なパブリックイメージが強かった野村周平の起用に対し、一部の原作読者からは「イメージが異なるのではないか」という声が上がっていたのも事実でした。
しかし、劇場公開とともにその懸念は一瞬で賞賛へと塗り替えられました。画面に映し出されたのは、千早の無邪気な笑顔の隣で微かに視線を落とす切ない横顔、新への憧憬と嫉妬に引き裂かれる瞳の揺らぎでした。野村周平は、持ち前の端正な顔立ちを活かしつつ、太一の「報われない哀愁」を完璧に憑依させていたのです。当時の映画雑誌や特番インタビューにおいて、小泉徳宏監督は「太一という役は、ただ格好いいだけでなく、情けなさや泥臭い弱さを曝け出せる俳優でなければ成立しなかった。野村周平の持つ表現の幅こそが太一に命を吹き込んだ」と語っています。
特に『上の句』『下の句』を通して描かれた、競技かるたの札を払う際の一瞬の迷いや、勝負どころで「運に見放される」瞬間の張り詰めた表情は、ちはやふるにおける野村周平の演技力の高さを決定づける証拠となりました。