母体年齢の上昇に伴い、染色体異常を持つ子どもが生まれる確率が高くなるという事実は、国内外の産科学会による膨大な臨床統計で裏付けられています。厚生労働省や日本産科婦人科学会の公表資料を総合すると、母体年齢と21トリソミー(ダウン症)の出生頻度には以下のような相関関係が認められます。
なぜ年齢とともに染色体不分離の発生頻度が増大するのか。その理由は卵子の形成過程という生物学的なメカニズムに隠されています。男性の精子は思春期以降、精巣内で日々新しい細胞分裂を繰り返して作られます。対照的に、女性の卵子の元となる「卵母細胞」は、自身が母親の胎内にいる胎児期にすべて作られ、減数分裂の第1分裂前期の途中で休止状態に入ります。
つまり、35歳で排卵される卵子は、体内でおよそ35年間休眠状態を続けていた細胞です。近年の分子生物学の研究により、長期間保管された卵母細胞内では、染色体同士を束ねている接着タンパク質「コヒーシン(Cohesin)」が徐々に劣化・脱落していくことが判明しています。さらに、分裂時に染色体を両極へ正しく牽引する「紡錘体チェックポイント機構」の機能低下も重なり、染色体が綺麗に分離できずに1つの細胞へ偏ってしまう確率が物理的に跳ね上がるのです。
なお、ダウン症の染色体不分離のうち約90〜95%は卵子由来(母方減数分裂エラー)ですが、約5〜10%は精子由来(父方減数分裂エラー)であることが確認されています。生殖細胞の自然な経年変化であり、何者かの故意や過失で引き起こされる現象ではありません。