武豊の凄みを語る上で、父・武邦彦の存在を外すことはできない。現役時代、「ターフの魔術師」と称された邦彦は、鮮烈な追い込みと鮮やかな手綱さばきでファンを魅了した。日本中央競馬会(JRA)の歴史にその名を深く刻んだ大スターである。
邦彦の騎乗スタイルは、馬の力を極限まで引き出しながらも無駄な負担をかけない、極めて洗練されたものだった。武豊が幼少期から目にしてきたのは、勝ち誇る父の姿だけではない。勝負に対する厳しさ、馬への深い敬意、そしてプロフェッショナルとしての立ち振る舞い全般であった。
後年、邦彦は調教師としても数々の名馬を育て上げ、息子である武豊にも自らの厩舎の馬を託した。親子であり、師弟であり、時にはターフ上のライバルでもあった。父から伝授された勝負師の美学こそが、武豊という不世出の騎手を形作る最大の骨格となったのである。