歌野晶午氏の筆致が恐ろしいのは、フェアネスを徹底している点にあります。読者を騙すためのアンフェアな嘘は一切書かれておらず、作中には至るところに「彼らが高齢者である証拠」がフェアに散りばめられていました。
例えば、成瀬が日常的に摂取しているサプリメントや薬。一見すると肉体改造用のプロテインや健康食品のように読めますが、実は持病の薬や精力増強剤です。また、作中で語られる昔話や思い出のトピックには「東京オリンピック(1964年)」や「戦後の混乱期」の肌感覚が自然に混ざり込んでおり、歴史の語り口に妙なリアルさがありました。
さらに、詐欺グループが狙うターゲットの属性、ゲートボールや定期健診に関する話題、成瀬がふと漏らす「若い連中は……」という言い回しなど、再読すると「なぜこれほど露骨なヒントに気付かなかったのか」と悔しくなるほどの手がかりが整然と配置されています。作者の計算し尽くされた言葉選びの巧みさに、多くの読者が脱帽しました。