ビジネスの第一線やSNSの言論空間を観察すると、「時は金なり」を歪んで解釈した結果生じる「タイパ(タイムパフォーマンス)中毒」の弊害が深刻化しています。動画の2倍速視聴、要約記事だけのインプット、AIツールによる即時アウトプットの量産など、可処分時間の極限までの効率化が礼賛されてきました。
しかし、都内の大手ITコンサルティングファームで働く30代男性マネージャーは、取材に対して次のような生の告白を寄せています。
「朝から晩まで分刻みで予定を詰め、会議も資料作成も最速で片付けることばかり考えていました。『時は金なり』を座右の銘にして、隙間時間をゼロにすることが優秀さの証だと思い込んでいたのです。しかし、気がつけば新しい事業のアイデアがまったく浮かばなくなり、部下との雑談すら無駄に感じて人間関係も冷え切ってしまった。2026年の春に自律神経を崩して休職したとき、自分が削減していたのは無駄ではなく、思考の深さと人間性そのものだったと痛感しました」
心理学および組織行動学の分析によれば、人間の脳が創造的なひらめきを得たり、複雑な課題の本質を捉えたりするためには、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼ばれる安静時の脳回路の働きが不可欠です。目先の秒単位の効率を追い求め、余白を一切排除する行為は、長期的には最大の知的機会損失を生み出しています。
時間を切り詰めて得た浮いた時間で、くだらない短尺動画を惰性で眺めていては本末転倒です。「何のために時間を確保するのか」という目的意識なき効率化は、フランクリンが戒めた怠惰の別形態に過ぎません。