フッ化水素酸に接触した場合、体内ではどのような異変が進行するのか。臨床医学が解明したフッ化水素酸の症状の経緯と組織破壊のタイムラインを整理します。
第1段階:接触直後〜1時間(潜伏期と無痛の浸透)
高濃度溶液では直ちに白濁や発赤が生じますが、20%〜50%の中・低濃度溶液では目立った自覚症状がありません。皮膚表面に異常が見られない間も、未解離のフッ化水素分子は真皮を突破し、皮下脂肪層や血管網へと到達します。
第2段階:1時間〜6時間(激痛の発現と融解壊死の開始)
組織内で大量のフッ化物イオンが解離し、神経組織のカルシウムを強奪。神経伝達が暴走し、モルヒネすら効きにくいと言われる「骨を万力で締め上げられるような激痛」が発生します。この段階でフッ酸による壊死がなぜ起こるのかというと、細胞内のカルシウム枯渇によって細胞膜構造が崩壊し、細胞融解(液化壊死)が引き起こされるためです。皮膚は蒼白から灰白色に変化し、水疱を形成します。
第3段階:6時間〜24時間(骨の融解と全身性心不全)
遊離したフッ素は骨の主成分であるヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)と反応し、骨組織そのものを腐食・融解(骨破壊)させていきます。同時に、血中へ移行したフッ素が全身のカルシウムを枯渇させ、重篤なテタニー(筋肉の痙攣)、低血圧、意識混濁を発症。最終的に心電図上でQT延長からトルサード・ド・ポアンツ(多形性心室頻拍)、そして心室細動へと移行し、心停止に至ります。