万が一、就寝中や庭仕事中に咬傷被害に遭ってしまった場合、正しい医学的知識に基づいた救急処置を行わなければ症状を悪化させることになります。
長年ネット上や一部の古い民間療法で「ムカデに噛まれたらすぐに氷水で冷やす」という説が流布されていましたが、これは現代の救急医学においては明確に否定された危険な誤謬です。
日本医師会や皮膚科専門医の臨床指導によると、ムカデの主毒成分である酵素タンパク質は43℃以上の熱によって熱変性を起こし、失活(無毒化)する特性を持っています。逆に患部を冷やしてしまうと、毒素の活性が維持されたまま局所の血管が収縮し、激しい痛みが長時間にわたって増悪することが実証されています。
ムカデに噛まれた際の正しい応急処置手順は以下の通りです。
- ステップ1(温水洗浄):速やかに給湯器の温度を43℃〜46℃(火傷しない限界の温度)に設定し、シャワーの温水を患部に20分以上直接当て流し続ける。この際、毒を絞り出すように石鹸を泡立てて優しく洗い流す(毒を吸い出すポイズンリムーバーも有効だが口で吸うのは禁忌)。
- ステップ2(ステロイド外用):温水で毒素を変性・洗浄した直後、抗炎症作用の強いステロイド軟膏(市販のヒドロコルチゾン配合軟膏など)を患部に厚めに塗布する。
- ステップ3(医療機関の受診):患部の強い腫れ、全身の蕁麻疹、めまい、吐き気、呼吸苦などが現れた場合はアナフィラキシーショックの疑いがあるため、直ちに救急車を要請するか救急外来を受診する。
対照的に、ヤスデを踏み潰してしまったり、皮膚に接触して体液を浴びたりした場合は熱湯ではなく、大量の冷流水と弱アルカリ性の石鹸で徹底的に擦らず洗い流すことが最優先です。酸性の刺激分泌液を中和・希釈し、皮膚への浸透を防ぐ必要があります。万が一、目に入ってしまった場合は決して目をこすらず、洗眼薬や水道水で最低15分間洗眼を続け、直ちに眼科医の精密検査を受けてください。