過酷な打撃を受け続けるこのぬいぐるみには、正式な名前が存在します。劇中や公式関連グッズにおいて明かされている名称は「しあわせウサギ」です。一部のエピソードでは「殴られウサギ」や特注品の「トオレ(フランス語風の響きを持たせたバリエーション)」などと呼ばれることもありますが、基本となるプロトタイプは一貫して「持ち主に幸せをもたらす」という願いが込められたピンクのウサギでした。
このネーミング自体、制作者陣による計算し尽くされた強烈なアイロニー(皮肉)といえます。幸せを呼ぶはずのぬいぐるみが、家庭内で最も陰惨な怒りの受け皿として消費される構図は、ブラックコメディとしての『クレヨンしんちゃん』の真骨頂です。
また、もえ子やネネちゃんが愛用するウサギは既製品にとどまらず、打撃に耐えうるように補強された特注モデルや、旅行先・外出先へ持ち運ぶための小型携帯モデルまで多岐にわたります。日常のあらゆる局面に「怒りの捌け口」を同伴させる桜田家の異様さは、記号化されたギャグでありながら、どこか背筋を凍らせるリアリティを放っています。