彼女の「大人の色気」を語る上で避けて通れない最大の契機が、2015年公開の主演映画『ピース オブ ケイク』です。情に流されやすく恋愛依存気味の主人公・梅宮志乃役を演じた多部未華子は、劇中で綾野剛らとの情熱的かつリアルなキスシーンやベッドシーンに挑戦しました。
当時の舞台挨拶や映画専門誌のインタビューにおいて、彼女は「自分の中にない感情や衝動をさらけ出すことへの恐れはあったが、志乃という女性の愚かさや愛おしさを嘘偽りなく表現したかった」と語っています。作中見せた生々しい息遣いや素肌の質感、どこか脆さを孕んだ視線の演技は、それまでの「清純派・個性派コメディエンヌ」という枠組みを軽やかに打ち破り、観客に強烈なエロティシズムと切なさを同時に印象付けました。
その後も『私の家政夫ナギサさん』で見せた仕事に奔走しながらふと見せる無防備な部屋着姿や、近年のドラマで見せる抑制された大人のアンニュイな佇まいなど、露出の多さに頼らない「内面から滲み出る色気」の表現技術は年々研ぎ澄まされています。