公開当初、映画に対する世間の評価は賛否が大きく分かれました。最大の論点は村上春樹の原作小説との違いです。原作の持ち味であるワタナベのアイロニカルで饒舌な一人称の語りを映画版ではバッサリと削ぎ落とし、セリフよりも映像美、光と影のコントラスト、そしてレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが手掛けた不穏で美しい劇伴音楽によって物語を紡ぎ出したためです。
「村上文学の空気感とは異なる」「説明不足で感情移入が難しい」という原作ファンの厳しい声があった一方で、映画批評家からは「ひとつの独立した純文学的な映像詩」として高い評価を受けました。そして現在、過剰な説明台詞を排したミニマルな演出手法は、映画ファンや若い世代の間で「時代に風化しないアートピース」として再評価の機運が高まっています。