では、なぜ「呪」という漢字はこれほどまでに不吉で恐ろしいイメージ一色に染まってしまったのでしょうか。そこには中世以降の権力闘争と宗教観の変化が深く関係しています。
律令時代の日本では、国家公認の呪術を司る「陰陽寮」が設置され、呪術は国を守るための最高機密でした。しかし、平安時代から中世にかけて貴族間の激しい政争が起こると、相手を失脚させる手段として密かに呪術が悪用されるようになります。「人を呪わば穴二つ」といった言葉が定着するにつれ、表舞台の「祝祷(国家安泰・慶事)」と裏舞台の「呪詛(調伏・怨念)」が完全に切り離され、「呪」には陰鬱な闇のイメージのみが定着してしまいました。
しかし、現代でも神社で受ける「お札(神呪)」やお守り、初詣で唱える祈願など、私たちの生活には「呪」が本来持っていた「祈りによる守護」の文化が形を変えて息づいています。