テレビ番組などでよく見られる「ちょっとお時間よろしいですか」という声かけのシーンは、ほぼ例外なく店舗の出入口を出た直後、あるいはレジの最終精算ラインを完全に越えた場所で行われます。店内通路で商品をポケットに入れた瞬間に声をかけないのには、極めて厳格な法的根拠が存在します。
日本の法律上、私服保安員は警察官のような特別な捜査権や公的逮捕権を持っていません。彼らが行う身柄確保は、刑事訴訟法第213条に規定された「現行犯逮捕(私人逮捕)」に基づいています。現行犯逮捕は一般人でも令状なしで行うことができますが、そのためには「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」であることが客観的に明白でなければなりません。
店内で商品をカバンに入れた段階で声をかけてしまうと、被疑者から「レジでお金を払うつもりだった」「カゴが重かったので一時的に入れただけだ」と弁解された場合、刑法第235条の窃盗罪における「不法領得の意思(他人の財物を自己の所有物として処分する意思)」を裁判上立証することが極めて困難になります。そのため、未払いのまま店舗敷地外へ一歩足を踏み出し、精算の意思がないことが客観的に確定した瞬間が、最も確実な声かけタイミングとなるのです。