一頭買いをする店舗自体は珍しくなくなったが、現在の職人たちに求められているのは「その一頭をどう物語として構築するか」というプロデュース力だ。ミスジやザブトンといったメジャーな希少部位にとどまらず、シンシン、トウガラシ、インサイドスカートなど、細分化されたカットの切り出し方ひとつで味わいが劇的に変わる。
隠し包丁の深さ、タレに浸す時間、肉の温度管理。職人の手仕事によって切り出された一皿は、単なる食材の提示ではなく、一品料理としての完成度を誇る。コース仕立てで提供する店舗が増えたのも、こうした一食全体のストーリー性を重視する顧客が増えたことの証左だ。