ソーシャルメディアやネットの掲示板、Q&Aサイトを定点観測すると、検便に対する大人のリアルな葛藤と苦悩が浮き彫りになります。「子供の頃は検便の容器を渡されても何も考えず提出していたが、大人になって一人暮らしや家庭を持つと、衛生管理や採取タイミングのプレッシャーが異常に重くのしかかる」という告白は、決して特異なものではありません。
特に多いのが、「家族に見られたくない」「共用冷蔵庫に便の検体を入れることに対する配偶者からの冷ややかな視線」という家庭内心理の問題です。ある30代会社員の手記では、「検便の前日になると緊張で腹部が張り、当日の朝は出勤時間が迫る中で便座に座り続け、結局出ないまま空の容器を持って出社した時の屈辱感は計り知れない」という切実な声が寄せられています。
一方、都内大手健診センターで日々数千本の検体を処理する臨床検査技師への取材によると、現場側が抱える問題点も見えてきます。
「提出される検体のうち、およそ2〜3%は容器のフタが緩んで保存液が漏れていたり、逆に便がギューギューに詰め込まれて検査機器のノズルを詰まらせる恐れがあったりします。もっと深刻なのは、『2回分取らなければならない』という義務感から、同じ日の同じ排便から2本のスティックに採便して日付だけを偽って提出されるケースです。2日法は大腸病変の断続的な出血を拾い上げるための確率論的アプローチですので、同日の便を分けても精度は上がりません。出なかったのであれば、正直に『1回分しか取れませんでした』と受付で申告していただくのが、受診者にとっても最も有益なのです」
このように、受診者側の「完璧に提出しなければならない」という強迫観念が、かえって検査の形骸化や過度なストレスを生み出している実態が伺えます。