多摩動物公園のオオカミを語るうえで外せないのが、日本の動物園史に刻まれた「多摩パック」の歴史です。1980年代から2000年代にかけて、同園は国内でも極めて稀な「自然に近いオオカミの群れ社会」の再現に成功していました。
群れのリーダーである「アルファオス」と「アルファメス」を中心に、厳格な階級社会(ヒエラルキー)が構築され、歴代の名個体たちが数々のドラマを生み出しました。ロボ、モロ、ネロ、セロといった印象深い名前の個体たちが築いたパックは、繁殖期ごとに新たな仔息を生み、最盛期には放飼場内に15頭を超えるオオカミたちが群れをなして生活していました。
しかし、オオカミの群れ社会は極めて繊細です。成長した若オスによるアルファ交代の激闘、下位個体への集中的な攻撃(いじめ・排除)、そして血統の固定化(近親交配)を防ぐための繁殖制限など、群れ飼育には常に高度なリスクが伴いました。加齢に伴う衰弱や闘争による死亡が重なり、多摩の巨大パックは世代交代の波とともに徐々に規模を縮小していったのです。