この絶望の底に光を差し込んだのが、貧困のなかで母親の栄養をつけるために金を稼ごうとしていたゲンでした。兄夫婦から「1日千円」という破格の報酬で政二の世話係を引き受けたゲンは、物置小屋の異様な光景に衝撃を受けます。
自暴自棄になった政二は、近づくゲンに対して激しい暴言を浴びせ、噛みつき、狂ったように追い払おうとします。しかし、ゲンは決して逃げ出しませんでした。政二の身体にたかるウジ虫を素手で一匹ずつむしり取り、井戸水で爛れた身体を丁寧に洗い清め、糞尿の始末を黙々とこなしたのです。
「死にたい」と叫ぶ政二に対し、ゲンは涙を流しながら魂の底から叫びます。「生きて生き抜いて、原爆を落としたやつらに復讐するんだ!」「命を粗末にするな!」というゲンの剥き出しの怒りと生命力に触れたとき、政二の凍りついていた心は激しく揺さぶられました。
ゲンは政二がかつて画家を目指していたことを知ると、不自由になった手に包帯で絵筆を固定し、口にくわえさせてカンバスに向かわせます。政二の中で、押し殺されていた「表現への衝動」と「生への執念」が再び燃え上がった瞬間でした。