危機に瀕したオーストラリア政府は、国家の総力を挙げた前代未聞の駆除作戦を開始します。まず着手されたのが、大陸を縦断する全長約1,833キロメートルに及ぶ「ウサギ侵入防止フェンス(Rabbit-proof fence)」の建設でした。西オーストラリア州への侵入を防ぐために巨費を投じて建設されたこの柵は、完成時には世界最長の防護柵となりましたが、地中を掘り進むウサギの侵攻を完全に食い止めることはできませんでした。
物理的な封じ込めに限界を感じた政府は、1950年代に禁断の生物兵器の投入に踏み切ります。ウサギだけに感染して致死的な腫瘍を引き起こす「粘液腫ウイルス(Myxoma virus)」を野外に散布したのです。この作戦は当初劇的な成果を上げ、ウサギの個体数は一時的に約99%激減しました。
しかし、自然の適応力は人類の計算を超えていました。わずかに生き残った個体が急速にウサギ粘液腫病への免疫を獲得し、再び数を増やし始めたのです。その後、1990年代には「ウサギ出血病ウイルス(RHDV)」、さらに近年では新たな変異株(RHDV2やK5株)が投入されるなど、現在に至るまでウサギの進化と人間の駆除テクノロジーによる「いたちごっこ」の戦争が続いています。