画面越しには完璧なエンターテインメントに見えたこのステージですが、制作の裏側は危機と隣り合わせの綱渡りでした。最もファンの胸を締め付けたのが、ジンの手の怪我とグラミー賞出演をめぐる状況です。ジンは授賞式の約2週間前に左手人差し指の腱を痛め、緊急手術を受けていました。ギプスをはめた状態での激しいダンスは再断裂の恐れがあるため、演出チームは急遽構成を変更。ジンをメインコントロールルームでハッキングを指揮する「司令塔」役に配置し、要所要所で存在感を放ちながら終盤のクライマックスで見事に合流するという、ピンチを逆手に取った脚本が組まれました。
苦難はそれだけにとどまりませんでした。渡米直前にJ-HOPEが新型コロナウイルスに感染し韓国で隔離生活を余儀なくされ、さらに現地ラスベガス入り直後にはジョングクまでもが陽性判定を受けるという非常事態に見舞われます。BTSグラミー賞2026舞台裏ビハインドの公式ドキュメンタリーやインタビューで語られたところによると、7人全員が揃ってステージ上で音合わせと動線の確認を行えたのは、なんと授賞式前日のリハーサルが最初で最後でした。
振付師チームは代役のダンサーを立ててミリ単位の修正を重ねていましたが、本番前夜に合流したメンバーたちは、極度のプレッシャーの中で睡眠時間を削り、ホテルの一室で動線を徹底確認したといいます。不屈のプロフェッショナリズムが、あのアクシデントを微塵も感じさせない奇跡のステージを成立させたのです。