ネット上の簡易的なデザイン解説記事では、「アルファベットが大文字だけなら縦積みにしても問題ない」という言説が見られますが、これは現場で頻発する重大な誤解の一つです。
たしかに「H-O-T-E-L」や「O-P-E-N」のように、すべて大文字(オールキャップス)で組まれた単語は、文字の高さ(キャップハイト)が揃っているため、幾何学的な四角形の並びとしてレイアウト上の座りは良く見えます。しかし、看板表記において大文字を縦積みにした場合、海外からの旅行者はそれを「H・O・T・E・L」という単語ではなく、何らかの頭文字を並べた略語(NATOやUNESCOのような組織名)と誤認する確率が跳ね上がります。特に縦書きにおける英語の大文字小文字の扱いでは、単語の意味伝達を最優先に考える必要があります。
もう一つの大きな盲点が、英語書籍の背表紙における回転方向の国際的な差異です。国際標準化機構が定める規格(ISO 6357)では、横に倒して印刷する背表紙タイトルについて「上から下(Top-to-Bottom:首を右に傾けて読む方向)」を推奨しており、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどの主要英語圏で標準採用されています。
しかし、フランスやドイツなどの一部のヨーロッパ大陸諸国では、歴史的に「下から上(Bottom-to-Top:首を左に傾けて読む方向)」の慣習が根強く残っており、国際出版物では現在も混在が見られます。日本の出版界における縦書き書籍の背表紙ルールでは、日本語の縦書きタイトルの中に英語が入る場合、頭を上にして時計回りに90度倒す(首を右に傾ける)スタイルが圧倒的多数を占めています。左倒しにしてしまうと、日本語の視線誘導と完全に逆行するため重大な組版ミスと判定されます。