幕府を開いた徳川家康は、武家の正統性を誇示するために源氏の象徴である白黒の意匠を重用した。その代表格が中黒旗である。白地の中央に太い黒の横帯を引いたこの極めてシンプルな旗は、新田義貞をはじめとする源氏の武将たちが愛用した由緒ある軍旗だった。
江戸幕府が整備されると、中黒旗は幕府御用船の公的な目印として採用される。鎖国下であっても長崎や琉球、蝦夷地周辺では異国船との接触が皆無ではなく、海上で「誰がこの船の主であるか」を明確に示す必要があった。幕府の権威を象徴する船印は、当時の周辺諸国にとって事実上「日本の統治者の旗」として認知されていたのである。
葵紋の旗幕とともに海を制した中黒のデザインは、極めて高いコントラストと視認性を誇っていた。余計な装飾を削ぎ落とした武士の機能美は、後代のグラフィックデザインの観点から見ても驚くほど洗練されている。