発達障害を抱える人が直面する就労上の壁は、単一の要因ではなく複数の認知的負荷が連鎖して発生します。厚生労働省や障害者職業総合センターの調査研究においても、職場における適応不全には神経発達症特有の認知的バイアスが深く関わっている事実が裏付けられています。
第一の壁となるのが、発達障害において仕事が続かない理由の代表格である「実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)の脆弱性」です。複数のタスクに優先順位をつけ、スケジュールを逆算しながら配分する脳内司令塔の働きが弱いため、突発的な業務が入るだけでパニックに陥りやすくなります。その結果、重要書類の提出遅延やケアレスミスの多発を招き、周囲からの信頼を短期間で失う悪循環に陥るのです。
第二に挙げられるのが、「認知的過負荷とカモフラージュ症候群(Masking Burnout)」の存在です。当事者は職場で「普通の人」に見えるよう、常に神経を研ぎ澄まして定型発達者の振る舞いを模倣(マスキング)しています。視覚や聴覚の感覚過敏を抱えながら、オフィスの雑音や蛍光灯の明滅、飛び交う雑談に耐え抜く行為は、定型発達者が想像する以上の脳内エネルギーを消費します。その結果、入社後3か月から半年ほどで過覚醒の反動が起き、うつ状態や自律神経失調症を発症して休職・退職へ追い込まれます。
第三に、日本型雇用特有の「ハイコンテクストなコミュニケーション」が致命的な障壁となります。「適当にやっておいて」「よしなに頼む」といった曖昧な指示の解釈が困難であるため、業務の着地点を誤り、上司からの激しい叱責にさらされる構造が固定化しています。