数年前から不動産業界やネットの掲示板等で度々囁かれてきたのが、「老朽化した馬車道の歴史的ビルが、大手デベロッパーによって順次解体され、タワーマンションに建て替えられるのではないか」という建て替え計画の真相を巡る噂です。近隣の北仲通地区で高さ200メートル規模の超高層開発が相次いだことから、この懸念は現実味を帯びて語られてきました。
しかし、横浜市都市整備局や地元保全関係者への取材を突き合わせると、単純なスクラップ・アンド・ビルドは現実的ではないことが浮き彫りになります。その理由は、横浜市が長年培ってきた独自の「歴史的景観保全システム」にあります。
横浜市では、認定歴史的建造物に対して耐震改修工事費用の助成制度を整えているほか、容積率を他の敷地へ移転・売却できる「容積率移転制度」を運用しています。これにより、ビルの所有者は低層の歴史的建築を保全したまま、未消化の容積率を隣接する高層開発敷地に譲渡して開発利益を還元させることが可能となっています。横浜アイランドタワーがその典型例であり、大津ビル周辺でも景観誘導基準が厳格に適用されているため、街並みを破壊する単独建て替えは法規上も極めて困難です。
関係者の証言によると、「過去に大手開発業者による買収打診は複数回あったものの、所有者の保全意向が強く、市も景観形成重点地区としての指定を強化している」とのこと。したがって、突発的な解体・建て替えのリスクは極めて低く、現在は「いかに耐震性能を高めながら内外装を次世代へ引き継ぐか」という保存工学の議論が主軸となっています。