目薬を差した直後、薬液は眼球表面のわずかな涙の層にとどまろうとする。しかし、目頭には「涙点」と呼ばれる小さな排水口が存在する。ここから薬液が流れ出てしまうと、眼球にとどまるべき有効成分の濃度が一気に低下してしまう。
薬液が目頭から逃げると、結膜や角膜に必要な成分が浸透しない。結果として、いくら高価で優れた薬を使っていても、十分な治療効果を得られないまま終わってしまうのだ。目頭を適切に圧迫して涙点を一時的に塞ぐことで、薬液を結膜嚢内にしっかりと滞留させ、角膜からの吸収率を飛躍的に高めることができる。
さらに深刻なのが、流れ出た薬液が全身へ巡るリスクだ。涙点に入った目薬は、鼻や喉の粘膜へと到達する。粘膜は血管が非常に豊富であるため、胃腸や肝臓を経由する内服薬と異なり、成分が直接血流に乗って全身を駆け巡ってしまう。点眼後に目頭を押さえる最大の理由は、局所治療であるはずの点眼薬を「全身薬」に変えてしまわないための防波堤を築くことにある。