猪熊弦一郎が描いた力強い図案に対し、どのような文字を合わせるべきか。やなせたかしは苦悩した。既存のフォントを置くだけでは、絵画が持つ圧倒的なエネルギーに負けてしまう。かといって主張しすぎれば、全体の調和が崩れてしまうからだ。
彼は筆を取り、何度も何度も手書きで英字を書き連ねた。流れるような筆致、角のない丸みを帯びた独自のスクリプト体。最終的に出来上がった鮮やかな赤いロゴは、猪熊の図案と奇跡的な融合を果たした。「画家の描いた世界観を絶対に壊さない」という若きやなせの意地と敬意が、あの伝説のロゴを生み出した瞬間だった。
この仕事を通じて、やなせは商業美術とアートの融合を肌で学んだ。単に商品を包むためだけではなく、手にした人の心を華やがせるデザイン。この体験が、彼のグラフィックデザインに対する美学を決定づけ、後の絵本作家としてのキャリアへと注ぎ込まれていく。