「新玉ねぎは普通の玉ねぎより糖度が高いから甘い」と信じている人は少なくありません。しかし、糖度計で計測した客観的データを見ると、新玉ねぎも普通の玉ねぎも、実際の糖度はどちらも約7度〜9度前後であり、数値上の甘みにはほとんど差がありません。イチゴや一般的なミカンに匹敵する糖分を、どちらの玉ねぎも元々蓄えているのです。
それにもかかわらず、なぜ普通の玉ねぎを生でかじると涙が出るほど辛く、新玉ねぎはフルーツのように甘く感じられるのでしょうか。鍵を握るのは「揮発性硫黄化合物(硫化アリル)」の濃度バランスと水分量です。
玉ねぎの細胞が破壊された際に生じる催涙・辛味成分「硫化アリル(アリシン等)」は、舌の痛覚神経を強烈に刺激します。普通の玉ねぎは乾燥工程で水分が抜けているため、硫化アリルの濃度が凝縮されており、強い辛味が糖度の甘みを完全に覆い隠してしまいます。一方、新玉ねぎは水分量が約90%以上と圧倒的に豊富です。ジューシーな水分によって辛味成分が大幅に希釈されるため、人間が舌で知覚する痛みが抑えられ、隠れていた本来の糖分が前面に感じられるというメカニズムです。
さらに、硫化アリルと加熱の影響についても見逃せません。普通の玉ねぎをじっくり加熱すると甘くなるのは、熱に弱い硫化アリルが分解・揮発し、一部が甘みを感じさせる「プロピルメルカプタン」などの成分に化学変化するためです。新玉ねぎは加熱工程を経ずとも、素材そのものの水分比率によって「生食で甘みをダイレクトに味わえる」という唯一無二の特性を持っています。